沖縄の美術館で「生と死」「苦悩と救済」「人間と戦争」を想う

展覧会

上條陽子とガザの画家たち 希望へ・・・

【会期】2022年4月22日(金)-6月13日(月)
    ※4月19日(火)、20日(水)、21日(木)は展示替え作業のため休館です


プレスリリース:上條陽子とガザの画家たち 希望へ・・・展【PDF 2.4MB】


新人洋画家の登竜門で芸術界の芥川賞ともいわれた安井賞を女性として初めて受賞し、新進気鋭の画家であった上條陽子氏は、その後彼女を襲った大病を克服すると1999年パレスチナでのグループ展に参加しました。以来、その関係は現在も続けられ、実に23年にも及びます。周囲は高さ8mの壁に囲まれた「パレスチナ自治区・ガザ」は、「屋根のない監獄」とも称され、移動の自由を奪われた199万人が閉じ込められています。いまなおイスラエルによる爆撃が絶えず、紛争解決の糸口さえ見えません。しかし、その瓦礫の街にも尊厳と希望を持つ人間の営みが豊かに息づき、優れた芸術家が活動を続けています。昨年6月のNHK日曜美術館でも「壁を越える パレスチナ ガザの画家と上條陽子」として特集が放映されました。
 今展では、上條氏の新作を含む作品とガザの7人の作家作品を展示します。今年3月にガザから届き、日本初公開の作品もあります。どのような状況下でも芸術が多くの人々の心を励ます根源的なものであることがよくわかる作品群です。ご来館お待ちしております。

4月22日(金)11時~ 作家による作品解説

■4月23日(土)15時~17時 ギャラリー・トーク「ガザ:壁の中の画家たち」
上條陽子(画家)・原口美早紀(映像ディレクター)・佐喜眞道夫(佐喜眞美術館館長)
※人数制限(40名)がございますので、お早めにご予約ください。(電話 098-893-5737)


(展覧会ちらしより)
上條陽子 共感の遠近法

水沢 勉(神奈川県立近代美術館館長)

上條陽子。その止むことのない創作に接するたびに、この表現者には、通常の空間の遠近法とはまったく異なった感情の遠近法が備わっているように思える。
安井賞受賞作《玄黄(兆)》(1977年、東京国立近代美術館蔵)をまのあたりにしたとき、おそらく感情の濃度がこの表現主義的な筆触と色彩を生みだすことを必然としたのだとだれもが感じるはずだ。
その後、脳腫瘍に襲われ、一時、制作を停止せざるを得なかった。驚くべき恢復後、それまでの混沌とした画面は、鮮やかに色とかたちが明瞭に出現するものに変貌した。
弱者への共感がこの画家の作品にはいつでもある。死に瀕した弱者のなかの弱者ともいうべき危うい存在に自分自身がなった経験があればこそ、近くても遠くても苦しみの対象に敏感に反応し、みずからの表現にその感情を充填し、結果、それが惜しみなくあふれ出すことになった。表現も半立体化してより自由になった。
ガザ地区で日々、暴力に晒され、怯えるひとびと。そこに暮らす子供たちへの共苦の思い。それが現地でのワークショップの実践を促し、また現地の画家たちとの連携も可能にした。
信じがたいエネルギーだ。が、おそらく画家本人の気持ちとしては、絵を描くことと地続きの行為であって特別なものではないのではなかろうか。感情の遠近法がひとびとの思いをはっきり、しっかり、鮮やかに画家は感じ取り、それを自然に抱きしめているからである。

上條陽子とガザの画家たち 希望へ・・・